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執筆者の写真ぐらし ひがしおおみや

さいたま有機都市計画

更新日:2020年11月7日


2020年7月キックオフ! さいたま有機都市計画


今年1月、「ないとう農園」内藤圭亮さんが「こばと農園」田島友里子さんに声をかけたところから、この計画は始まった。

畑もあり人口も多いこのさいたまでは、有機農業を孤軍奮闘で頑張っている場合が多いが、みんなが集まればもっと面白いことができるんじゃないか。内藤さんのそんな思いが田島さんを動かした。仲間に声をかけ、Instagramでも発信した。

有機農業という狭い世界の中で個々がゆるく繋がっていたものを、グループとしてまとめることで、お互いの距離がグッと縮まり思いを共有できた。

これをきっかけに、さいたまの地をもっと盛り上げることができるはず!と、内藤さんと田島さんのもとに、賛同する有機農家が集まった。


さいたま有機都市計画? 

それって・・・どんな計画なんですか???

代表 田島友里子さんの畑「こばと農園」にお邪魔し、メンバーの皆さんにお話を聞いた



【 この計画のめざすもの 】


「一定の基準を満たした野菜を販売していきたい」と内藤さん。

有機農業推進法※という法律で定められている「有機農業」の定義を基準とし、さいたま有機都市計画のロゴをつくり野菜に貼って販売することで、基準を満たして栽培した有機野菜だとアピールするということも考えている。

当初はその基準を「有機 JAS 認証」でイメージしていたというが、認証手続きには費用も手間も掛かるため、間口が狭くなりすぎると思い直した。


また、ひとくちに有機農業といっても、農作業に使う資材の中には「有機 JAS 認証」では認められないものもあるのだという。

「生分解マルチ」と呼ばれるマルチシート(防虫のために張る黒色透明のビニールマルチ)は、一定期間置くと生物によって分解されるもので、広義の有機農業では使えるが、有機JAS認証を取得する場合は使えない。

有機JAS認証を受けていない(有機JASマークのついていない)農産物には、いくら有機農業で作られた農産物であっても「有機○○」と表示はできない。そのため、この有機都市計画を通じて、有機JAS認証にこだわらずとも、安心で美味しい野菜を作っている農家が皆さんのすぐ近くにいるということを知ってもらいたいと奮起する。


 

【さいたまの地で有機農業をやる良さ】

見沼田んぼのあたりは、都市と農村部分が融合しているエリア。人口が多く、有機野菜に関心が高い消費者も少なくないという。消費者と生産者の距離が近いことは、販売コスト削減の意味合いでもメリットがあるし、なにより顔が見えることで安心感がある。

「農家の人となりを見てもらったほうが信用してもらいやすいし、生産者側も正直にやりやすい。地域の方々との距離が近ければ近いほど、お互いの信頼は深まる。個人の信用を有機都市計画というグループに対する信用につなげたい。美味しい野菜を作ってぼくらのやり方をこまめに発信しながら、皆さんと密接に繋がっていけたら嬉しい」とメンバーの皆さんは話す。


※「有機農業推進法」は、平成18年度に策定された有機農業の推進に関する法律。

有機農業・有機農産物とは、以下①~③の農業生産方法を用いて行われる農業であると定義されている。

 ①化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない

 ②遺伝子組換え技術を利用しない

 ③農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する



メンバー紹介 (場所・就農年数等)

<Chill Out Farm>吉田浩之さん/岩槻

就農2年目、有機栽培、少量多品目の露地栽培

<マーシーズファーム>尾関正志さん

見沼田んぼ/蓮田

就農4年目、自然栽培、少量多品目の露地野菜

<こばと農園>田島友里子さん/見沼田んぼ

就農4年目、自然栽培、少量多品目の露地野菜

<木曽農園>木曽大原さん/桜区

農家見習い、有機栽培

<ないとう農園>内藤圭亮さん/伊奈町

就農10年目、有機栽培、少量多品目の露地野菜




 

素朴な疑問

メンバーの皆さんに聞いてみましたよ

農業に携わるということ…  お野菜について…

(対談:さいたま有機都市計画 × 中山じぇふりぃ)


【農業をはじめたきっかけは?】

~尾関さん・内藤さんの場合~


尾関さん  もともと食べることが好きで、無添加や有機野菜などに関心があったんです。たまたまご縁もあり、見沼田んぼで有機農家のお手伝いをさせて頂いたことがあります。もう10年前のこと。その時に食べた野菜の美味しさが忘れられませんでした。その後7年ほど会社員をしていましたが、自分の将来を考えた時、畑で野菜を作って暮らすことにとても魅力を感じたのです。それで、かつてお世話になった農家さんに弟子入りしました。


内藤さん  大学では地理学科の「農業地理」というゼミで学びました。農業自体をやるのではなく、ある地域の有機農家の経営実態を調べて卒論を書いたのですが、何人かの有機農家さんの話を聞きながら、なんかカッコイイなぁと思っていました。千葉の自然農の農家に1年間住込み研修をしたのは良い経験でした。その農家さんは、自分で建てた家に住み、鶏を飼い、ザリガニや雑草も食べて過ごしていて、わたしの目には心底楽しそうに映ったんです。体を動かすのも、美味しいものを食べるのも好きだから、それを同時に満たせる仕事は農業だと思いました。


 

【農業をやっていて大変な事・楽しい事は?】


中山  日々の大変な事や、楽しい事を教えて下さい。


有機都市  今年はとくに長梅雨と、8月に全く雨が降らなかったこと、天候にはいつも悩まされます。計画通りに作業が進まないこともある。

除草剤を使わないので、当然草取りも大変。とくに見沼田んぼは、ほかの所に比べて草の出方が本当にえげつない(笑) 3日に一度は草取り。無農薬だと、虫や天候に収穫高が左右されるリスクも高い。

あと、休みは人間の都合に合わせてというわけにはいきませんね。


中山  自然が相手ですものね、作物の成長は待ってくれませんしね。


有機都市  でもまぁ、いろいろと挙げましたが、この大変さを差っ引いても農業は結構楽しい!と断言できます。

暑さ寒さなど季節をダイレクトに感じることができるとか。

たとえば、暑い季節でも朝方には涼しくていいなとか、冬はちょっと日中ぽかぽかしているだけでも、今日はやりやすいなぁと思えたり。こうして雨が降ってくれることも嬉しかったりする(笑)


(ちょうどお話を伺っているときゲリラ雷雨に見舞われました)


中山  四季を肌で感じることができるって、普通にサラリーマンしてコンクリの上を歩いて帰ってくるだけの私にとっては憧れもあります。でも大変さを聞くと…私にはやっぱり無理かも(笑)

ところで、天候に左右されることは避けられなくても、この頃は天気予報が正確になってきたから、一昔前と比べたら作業工程の予測がしやすいですか?


有機都市  予報はコロコロ変わるから、割と当てにならないこともあるんですよ。

私(こばと農園さん)が研修でお世話になったベテランの農家さんは、「あの山に雲がかかったら降るぞ」とかよく言っていました。もう何代もその土地で農業をやってきて、ちっちゃい頃からそこで育ってきているからこその感覚。自然を察知する感覚がすごく鋭いんですね。

そういう方と比べると、天気予報に頼り過ぎている自分の感覚は、本当にまだまだだなと思います。

自分では、空を見て風を感じてとか思っているつもりでも、自然を肌で感じるような感覚はベテラン農家さんに比べれば私はまだまだひよっこ。でも、一般の方に比べたら自然の中にいる時間が長いから、少しはそういう感覚を持てているとは思います。


中山  皆さんは新規就農ですが、例えば、長年有機栽培されているベテランの方々と一緒にやるという可能性もありますか?


有機都市  はい!もちろんです。お知恵や長年の感覚など教えて頂きたいですし、一緒に盛り上げていきたいです。

いろいろ大変な事はありますが、それでも有機農業をやっているのは…、そのほうがカッコイイというのもあるし(笑) この体系の中で栽培すると、単純に美味しいものができやすいというのが理由にあります。美味しさを追求するとき、有機農業は手っ取り早いとも言える。美味しい野菜を作って消費者の方に喜んでいただけて、自分でも食べられるなんて最高です。



 

【ライフスタイルを教えて!】

~ないとう農園さんのとある一日~

05:30 起床 朝ごはん食べて珈琲タイム

07:00 農作業スタート

09:00 内藤さんが収穫した野菜を自宅に運び、奥さんやスタッフさんが袋詰め

    この作業を合計3往復ほど

11:30 奥さんか内藤さんかスタッフの誰かが出荷に行く

     ~帰宅後に休憩~

15:00 3時間くらい農作業

18:00 外が暗くなって終了


10月末頃は毎日こんな感じ。冬は少し休みがちに。



 

【さいたま市周辺に適した野菜・難しい野菜】


中山  さいたま周辺で育てやすい野菜・難しい野菜にはどんなモノがありますか?


有機都市  場所によって多少違いはあるけれど、結構何でもいける土地だと思います。とくに里芋とかネギはいいものができる。

あえて言うなら、見沼田んぼは葉物が難しいかな。

見沼田んぼは、川からの栄養がたっぷりで肥沃な土地だから肥料を入れなくてもぐんぐん育つ。例えば、一般的な慣行農法でネギを育てる場合、すごい量の肥料が必要ですが、ここでは土寄せするたびにぐんと伸びて、無肥料で育てたい農家にとってすごく有難いです。

それに、さいたまは災害が比較的少なく、風も穏やか。適度に霜も降りるけど、雪がすごく積もって冬に育てられなくなるということもない。なんだかんだ、一年を通して何かしら出荷できてしまうことがすごいと思います。自然と「自分の畑に合ったものを、季節に合わせて作る」ということをやっています。



 

【有機野菜ってお高いでしょ?】


中山  有機野菜というと、値が張るイメージがありますが...


有機都市  そんなこともないですよ。我々のように直売の場合は、お値頃だと思います。

流通に乗せれば、間に挟む人が多くなり高くなってしまうんです。

有機でも割と安く提供できるのは、やっぱりここの土地柄で消費者と生産者が近いからだと思います。直売価格はあまり変動しないし、スーパーより安く買えるかもしれません。

しかしそうは言っても、農家さんの思いやスタイルにもよるので一概には言えません。慣行農法に比べて収穫量が全然違う(作付けの6割ほど)ので、同じ手間をかけて穫れる量が少ないんだから値段は違うよねというのは分かるし、また、有機JAS認証を取れば、それに掛かる費用を上乗せしないと元が取れないと思う。

適正価格ってよくいいますが、手間暇かけてつくった野菜を価値に見合った価格で販売するのは大事なことです。でも、慣行野菜に囲まれている私たちにとっては、それが高いと感じるのかもしれません。慣行野菜が安い時の「安さ」は本当に驚きます、農家さんはいくらで出荷したんだろうと心配になるほどです。

地方の農業の特徴に、産地形成して同じ作物をたくさん作って一気に都会へ持っていくというような仕組みがあります。流通させるには一番効率がよく、安定的な供給が見込まれ、スーパーの野菜が安い理由のひとつでもあります。


中山  この仕組みで日本の食卓が支えられているんですね。


有機都市  そうですよね。そして、そういった産地化されている地方の農家では、スイカとか人参とかいろいろとありますが、同じ野菜ばかりを育てることになるんですね。ずっと同じ野菜をつくり続けると、同じ病害虫が溜まってしまうので、それを土壌消毒で一回リセットして再び人参を育てるという方法をとるんです。

逆に有機農業はそれをしないで、いくつかある畑で今年人参を植えたら来年は同じ場所には大根植えて、その次にトウモロコシ植えてとか、くるくる品目を変えてローテーションしていきます。そうやって輪作することで多品目栽培になるというのが有機農業のオーソドックスなやり方なんですが、多品目栽培になるほど実は「売りにくい」んです。

でも、ここは人口も多く、有難いことに直売所にはお客さんが何人も来てくれて、飲食店もたくさんあって、いろんな野菜をいろんな場所で消費してもらえるんです。私たちがやっている農業は、先程お話ししたようなやりかたとは違うけれど、このさいたま市という環境には合っていると思っています。



 

【無農薬は手間がかかる?】

手間はかかれど循環型で美味しい野菜ができる


中山  いろいろとお話を伺いましたが、やはり無農薬ですと手間がかかるんですね。


有機都市  そうですね、手間がかかると言えば、虫と病気のリスクはあります。それを回避するために、物理的に防虫ネットを使ったり、手で捕殺したりと地道に対処。あと、そもそも土作りをかなりしっかりして、野菜の細胞壁を厚くすることを意識しています。


中山  細胞壁ですか!ミクロの世界のお話が出てくると思いませんでした!


有機都市  化成肥料を使うと、季節に関係なく大きい野菜ができますが、そのぶん細胞壁が薄くもろくなり虫も寄ってきやすいんです。だから農薬を使うことになる。それが有機栽培だと、野菜が自分のペースで自分に合った大きさになり、病気にも強く丈夫に育ちます。細胞壁も分厚くなるので虫が寄りにくく、結果農薬を撒かなくて済むのです。あとは、自分の畑で育ちにくいものを無理に作るのではなく、土地に合ったものを作ることも大事だと思います。


中山  なんだか人間の成長にも通ずる気がしますね。ところで、肥料を使うことはあるのですか?


有機都市  化成肥料は使いませんが、農家のやり方によって有機肥料を使う場合はあります。ただ単に肥料を撒くだけではダメで、微生物が分解してくれないと栄養が野菜に届きません。気温や色々な条件で分解の速度も変わるので、その塩梅がすごく難しいです。


中山  自然の成長を見守る感じですね。


有機都市  手間がかかり大変なことも多いけれど、先程もお話しましたが、有機農業という体系の中でつくると、本当に美味しいものができやすいんです。

化成肥料いっぱい入れて農薬をかければ、大きくて綺麗なものがとれるんですけど、細胞がぶよぶよな分、味がぼやけてあいまいになったりする。

季節に合わせてつくらざるを得ないのが有機農業のポイントで、ちょっとしまった野菜がつくりやすくて、虫が寄りにくいというのが良いところです。やはり旬の野菜が一番おいしいし、人の体も旬にあわせてその野菜を食べたくなりますよね。

美味しさを求めると、どちらかというと有機農業は手っ取り早いんだと思います。

鶏で言えばブロイラーか平飼いかみたいな。


中山  なるほど、確実に味は違いますね。


有機都市  色々な意見があるとは思いますが、大前提として農薬は必ずしも悪いものではないということも、実はお伝えしたいんです。

世間的に「農薬=悪」というイメージがありますよね。でも、風邪をひいたら風邪薬を飲むように、風邪の予報のためにちょっと体操するような、そういうものだと思ってほしいんです。

野菜を作るのはとっても大変ですよ。

私たちのように少量多品目のやり方だったらいいけれど、やっぱり大産地となると肥料・農薬なしではなかなか難しいのではないでしょうか。

基本的に日本の 農家はみんな基準を守っていると思うし、残留農薬も基準以下のものがほとんど。

私の命だって農薬によって支えられているし、ここまで大きくなった。

私たちは有機農業をしていますが、慣行農法を否定するつもりは全くないんです。慣行もすごくリスペクトしています。日本の農家さん、本当にすごいんです!みんな体張って命張って食べ物を作ってるから。

だから、有機の野菜、慣行の野菜っていうふうに、そこまでわけて欲しくはないと思うんです。


中山  「わかりました」という言葉以外出てこないほど、なんだかグッときました。


有機都市  むしろ、今の日本の農業にとっての問題は「農薬と肥料と種」がほぼ輸入だということ。これが危ないと思うんです。命と直結することですから。言ってみれば自分たちの命の大事なところを、他国に握られているようなものです。

有機農業は、基本的にあまりもので作る農業と言われます。たとえば、鶏を飼っているとしたら、出た糞を発酵させて畑に戻すとか、米ぬかとかもそう、どうしても余って溜まってしまうものを循環させて栽培ができる。有機農業の定義のひとつ「環境負荷を低減する」ということでもあり、こうしたサスティナブルな農法は、自立した農業として強いと思っています。

おいしさももちろんですが、有機農業や自然栽培といった自立した農業、昔の日本ができていた、自分の所ですべて賄うような農業に希望を感じています。

でも、とにかく有機農家の数自体がすごく少ないので、食の多様性を守るためにもせめて農家数全体の2~3割くらいまではシェアが増えるといいなと思っています。


中山  有機農業は自然の循環の中で成り立っているのだということがよくわかりました。そして、おいしいお野菜を大事に作って下さっている皆さんの活動が、どんどん広がって盛り上がっていったら嬉しいです!

今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。


 

『さいたま有機都市計画』キックオフイベント

畑でマルシェとお弁当!

2020年11月3日(火・祝)

11:00~14:00(予定)


こばと農園(さいたま市緑区新宿・見沼田んぼ)

メンバーが育てた有機栽培の野菜やお米の販売

そして、これらの材料を使った「この日だけの特別なお弁当」

パーソナルシェフとしてご活躍中の岡部智子さんが手掛けます

広々とした有機栽培の畑なので、小さなお子さまも安心です

お弁当は予約可能です(悪天候の場合は中止)


文責:中山

photo by KOMICHI photograph


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